2017.7.24

レポート:アクティビスト・スカラーたちの群れに加わって (プロジェクト研究員 小林舞)

遅くなってしまいましたが、「Elikadura21 — The Future of Food and Challenges for Agriculture in the 21st century」の参加報告です。第七回目に当たる今年の集まりは、2017年4月24日から26日までスペイン、バスク地方のビトリア・ガステイスで開催されました。オランダ社会科学大学/International Institute of Social Studies (ISS)Initiatives in Critical Agrarian Studies (ICAS)Transnational Institute (TNI)_the Journal of Peasant Studies、さらにEHNE Bizkaia(バスク国農民結束ビスカヤ)やEtxalde (エシャルデ)といった現地のバスクの農民組織、世界最大の小規模農民・農業労働者支援団体 La Via Campesina(ビア・カンペシーナ)のメンバーなどが主なオーガナイザーで、地方政府・自治体、EUからの支援も受けています。この会は、農業や漁業分野、公共機関、NGO、学術機関に関わる研究者、活動家、実践者が一堂に会する点で独特です。参加者全員、「誰が、どのように、どういった社会的、経済的、生態学的な意味合いをもって世界へ食料を供給していくのか」について共に戦略的な議論を進めるという目的を共有し、基本的に、「食料主権*」の今と未来におけるビジョンと実践に関する問題を再評価し、分析を深めることを目指して集まっています。

全体の議論は、「現在、食料主権のビジョンを取り巻くどのような課題と議論があるか」、「研究や社会活動にどのような戦略が用いられているか」、「これまでどのような実践が効果的であり、それによってどんな結果がもたらされたか」を問うことから始まりました。議論をリードしたのは、Transnational Institute代表で、『How the Other Half Dies: The Real Reason for World Hunger/世界の半分がなぜ飢えるのか』の著者スーザン・ジョージ氏、ロンドン大学教授(開発学)で、『Class Dynamics of Agrarian Change/食と農の政治経済学:国際フードレジームと階級のダイナミクス』の著者ヘンリー・バーンスタイン氏、アグロエコロジーや農民運動における活動で知られるEl Colegio de la Frontera Sur (ECOSUR)のピーター・ロセット氏、英国サセックス大学開発学研究所の研究者で、『Sustainable Livelihoods and Rural Development』の著者イアン・スクーンズ氏、トロント大学教授(社会学)でトロント・フード・ポリシー・カウンシルに所属するハリエット・フリードマン氏、ハンター・カレッジとニューヨーク市立大学の人類学教授で著述家のマーク・エンデルマン氏、テキサス大学オースティン校教授で、『Stuffed and Starved: The Hidden Battle for the World Food System』の著者ラジーブ・パテル氏、FIAN Internationalのソフィア・モンサルべ氏、オランダ社会科学大学(ISS)教授で、Journal of Peasant Studies 編集長のジュン・ボラス氏といった方々でした。こうした方々は、強力に議論を導くと共に、参加者が平等に立場の垣根を越えて参加しやすい雰囲気を作り出していました。何よりも、より大きな社会の変革に参加する意識を共有し育てることこそ大切だったからです。その意味で私たちは、第一に、必要に応じて、何の弁解もなしに支え合い、批判し合える仲間でした。

こうした文脈を背景に、しかし学会自体は同時進行するパネル・セッションでの論文発表という極めてオーソドックスな形で進行しました(こちらのリンクから、論文を閲覧頂けます)。また、パネル・セッションの合間にテーマ別ワークショップが開催され、私が誘いを受けた『The Strategic Workshop for Transforming Japan’s Involvement in the Global Food System』もその内のひとつでした。

ワークショップには、明治学院大学国際平和研究所研究員の船田クラ―センさやか氏、モザンビーク出身でポルトガル・コインブラ大学のボア・モンジャネ氏、ブラジル・Movimento dos Pequenos Agricultores (MPA)のバルテル・イスラエル・ダ・シルバ氏、京都大学博士課程在籍中の「耕し歌ふぁーむ」の山本奈美氏、それにFEASTプロジェクトから私が参加しました。

パネルの参加者は、世界各地でそれぞれ異なる活動を展開しているユニークなメンバーたちです。全員を結びつけたのは、世界のフード・システムの中で果たしている日本の官民両者の役割への関心、あるいは懸念でした。ワークショップは、2009年8月に農林水産省と外務省が共同で取りまとめた「農業分野での海外投資を促進に関する指針」についての議論から始まりました。指針策定以降、日本の官民はともに世界中で農業・食品企業との関わりを拡大・強化してきました。それによって日本は、グローバルなフード・システムにおける重要なアクターとしての地位を確立しました。広範な影響にもかかわらず、こうした活動はほとんど注目されていません。私たちのワークショップで議論するべき問いは次のようなものでした。国を越えた農業投資を促進するそうした政策が、地元の農業共同体にいかなる影響を与えてきたか。一方、それにより、日本国内の農業政策はどのように変化し、それが日本国内の農業共同体にどのような影響を及ぼしたか。私たちが直面する課題や矛盾はどのようなものか。可能な解決策はどのようなものか。

ワークショップの口火を切って船田氏が、ProSAVANA事業(「日本・ブラジル・モザンビーク三角協力による熱帯サバンナ農業開発プログラム)に関する彼女自身の分析を紹介しました。同事業は、日本の国際協力機構(JICA)、外務省、ブラジル国際協力庁の主導のもと、「包括的で持続可能な農業と地域開発を通じて・・・(モザンビーク)住民の生活を向上させる」(ProSAVANA 2016)ことを目指して 2009年に始まったものです。その目的のために、1970年代から約20年間に渡り実施された日本・ブラジル二国間の官民連携プロジェクト「日伯セラード農業開発事業」(PRODECER事業)による熱帯サバンナ地帯における大豆栽培を中心とした農業開発を移入する形で、モザンビーク北部ナカラ回廊地域の熱帯サバンナに大豆栽培が持ち込まれました。ProSaVANA事業は地域開発プロジェクトとして発足しましたが、本質的には日本の総合商社のビジネスチャンスであり、日本のための物資確保だけでなく、アフリカ大陸内での貿易確立のための、アフリカでの農産生産物、運輸、インフラへの投資でした。

そうした意図に対する批判、土地の収奪や社会や環境への悪影響への懸念から、ProSAVANA事業はモザンビークの小農運動による抵抗と抗議の運動に遭遇します。この抵抗運動から、地元農民と市民団体の連合が生まれ、さらにブラジルと日本の市民団体組織やアカデミアとの連携へと広がっていきました。この連合が、ProSAVANA事業の針路に変化をもたらしました。ワークショップでは、モンジャネ氏より、連合の成功事例とモザンビークの農民コミュニティが現場で直面する課題について詳しい説明がありました。抵抗に直面し、ブラジルと日本のアグリビジネスと政府は焦点を再びブラジルに戻し、MATOPIBA地域(注:マラニャン州(MA)、トカンチンス州(TO)、ピアウイ州(PI)、バイア州(BA)の頭文字から)での新たな大規模農業開発プロジェクトに着手します。この海外農業投資の進路変更は、2017年1月に発表された日本最大の農業協同組合、全農(JA)の、セラード地域における大豆生産の主導企業アマッジ・グループ(ブラジル最大の巨大大豆企業で社長は現テメル政権の農務大臣)との合併事業への参加にも表われています。イスラエル・ダ・シルバ氏は発表の中で、新たにブラジルの大豆生産フロンティアとなったMATOPIBA地域での定住を申し立てている小農運動リーダーのスピーチを紹介しました。

こうした国境を越えたアグリビジネス、小農運動双方の連携という文脈の中で、私自身は日本の現在の農業景観と政府の政策の概要を紹介しました。日本では、保護主義や補助金の歴史の一方、強く自由貿易が推進されてきました。農民コミュニティにおける高齢化と消滅により、世界最大の食料純輸入国となっています。食料自給率向上に向け、日本政府は、農地整備、技術革新、民営化、「グローバル市場の戦略的開拓」に立った「強い農業」(MAFF 2016)づくりを促進してきました。発表の中では、こうした流れがしばしば多様な小規模農業を犠牲にし、コミュニティの生活維持を困難にしていることを話しました。このことが問題視されなければならないのは、都市人口の食料供給の脅威となるだけでなく、小規模な農業活動が、日本国内の重要な文化的・生物学的ニッチを支える多様な機能を果たすものとして価値があるからです。

山本氏は、現在ある、或いは出現しつつある、問題を乗り越えていくために、自分自身農村で暮らしを立てていこうとしている小農民の立場から、日本の農業政策が地方の農民にもたらす直接的な影響と含意について話しました。食料主権の確立に向けた自身の取り組みをどのように概念化するか、それがどんな妥協と抵抗を経験し、どのように別の選択肢を取り入れ、それに挑戦し、成果を上げていくかについての話でした。

ワークショップの最後は、発表者と参加者双方からの対話で締めくくられました。多くの方々が、グローバルな影響力をもちながら依然深い霞の中にある日本という地域の問題をさらに明確に、詳しく知りたいと関心を示されました。例えば、日本の農民、協同組合(JA)、農民連(農民運動全国連合会。国際農民組織La Via Campesinaへの加盟団体)相互の関係や仕分け、若い農業者が直面する問題、可能な補助金、ベーシック・インカムの確保、消費者の需要への応答、市場への働きかけ、さらには、農業分野、特に有機農業における外国人労働者についてなど、議論は多岐に渡りました。

このワークショップに何かひとつの結論があったわけではありません。しかし、最後には盛んな拍手を受けました。多様な解決に向けて活動を続け挑戦していくことこそ必要なことであり、こうした交流をさらに広げ、推進していこうと励まし合いました。

地球研におけるFEASTプロジェクトは、「トランスフォーマティブ・サイエンス(変革を目指した研究)」の概念に強く動かされてきました。これは、目の前で生まれつつあるダイナミックな変革を理解する自分たちの解釈と能力を積極的に高めるだけでなく、自分自身を変革の主体と認識することを目指しています。今回、Elikadura21に参加し、実際の「トランスフォーマティブ・サイエンス」が何たるかを、身をもって実感することができました。貴重な参加の機会を頂いたことに感謝し、次回の会議にもぜひ参加したいと楽しみにしています。

*食料主権とは「すべての人が、生態学的に健全で持続可能な手段で生産された健康的且つ文化的にも適切な食料を得る権利、また、自分自身の食料と農業システムを自ら定義する権利」(Declaration of Nyéléni 2007 )を指しています。

会場の様子 (撮影:小林舞)

ワークショップの様子(撮影:Yukari Sekine)

山本奈美氏の発表 (撮影:Yukari Sekine)

学会の様子はこちらからもご覧いただけます。