京北の有機農園訪問(地球研フェローシップ外国人研究員/チュラロンコーン大学 シティデー・ポンキワラシン)

FEAST HQ フィールドから, レポート

6月15日、16日に、FEASTプロジェクト研究員(小林舞)と共に、京都北部・京北にある有機農園「耕し歌ふぁ~む」を訪問しました。今回の訪問では、日本の山間部において家族で営まれる小規模な有機農園で農業を体験する貴重な機会を得ることができました。タイの山間部における持続可能な農業経済を研究する私にとって、今回の訪問は双方の経験に基づく知見を交換し、日本とタイの異なる課題や戦略を比較する特に意義深いものでした。

「耕し歌ふぁ~む」を営む奈美・尚也ご夫妻は、これまで12年間に渡り有機農業に取り組んできました。その第一の目的は、自分たち家族のために美味しくて安全な食べものを作ることで、そのことが、同じ価値観や不安を抱えた人々に広く、安全な野菜を販売することで成り立っています。「耕し歌ふぁ~む」の「里山のおすそわけ定期便」には、京都、大阪、神戸などに40世帯の顧客がいました。しかし、昨今の宅配料金の高騰により、所によっては料金が約3倍にまで膨れ上がって解約につながり、現在は30世帯にまで減少しています。

言うまでもなく、有機農園の運営には非常に大きな労力が必要です。その日、私たちは、主に草むしりと、ナスとピーマンの若い苗の成長を誘引するための紐を張る作業を担当しました。農園での日々の作業には途切れがなく、農家はクリエイティブかつ柔軟であると同時に、いつ、何を植え、育て、収穫し、売り込み、配達するのか、綿密に計画しなければなりません。このことについて、私自身理論的には理解していたつもりでしたが、今回1日だけでも作業に参加したことで、有機農園の運営が如何に大変であるか少し理解できたように思います。作業自体は非常に大変なものであったのに、あっという間に1日が終わり、まだまだやるべきことが多く残っているように感じられました。

農園の運営に投じられる労力、計画、配慮のおかげで、畑の土壌が非常によい状態に保全、改善されているのは明白で、さまざまなムシやミミズが生息していました。農家の仕事を経験させてもらい、彼らが愛情を込めて育てている野菜ひとつひとつへの感謝の気持ちを一層深めることができました。

タイの野菜栽培が直面する大きな課題は、水と害虫です。日本の場合、四季があり気候が大きく変化するため、農家は、種まきや収穫の時期に注意を払わなければなりません。多くの野菜は冬を乗り切ることができないので、種を採捕し、年ごとに種まきを行うことになります。対照的にタイでは、亜熱帯気候のせいで多くの野菜が年間を通して育つため、毎年種まきや植え付けを行う必要はありません。この点が、タイと日本との最も大きい違いではないでしょうか。また、この理由から、タイと比較して日本の農業はより労働集約型であり、その分日本の農家は計画性が高く、自己管理に長けているのだと思います。

そのほか気付いたのは、タイと比較した場合、日本の農家の方が市場にアクセスし易いという点です。その背景には、日本ではインフラが発達し、配送ビジネスもあり、都市人口が密集しているほか、おそらく食の質と安全に関する消費者の意識が比較的高いという理由があるのでしょう。しかし、インフラが整備されている一方、農家は、農園や農産物に対する関心を維持し購入を続けてもらうため、消費者と効果的にコミュニケーションをとる努力を続けなければなりません。そのため、奈美さんは、「耕し歌ふぁ~む」の活動や定期便で送られる野菜のことを消費者に伝えるための簡潔かつ詳細なニュースレターを作成し、配布しています。コミュニケーションを一貫して行うことが、おそらく、顧客ベースを保持する一つの重要な要素なのでしょう。こうしたコミュニケーションの努力は、農作業とは別の付随的な作業であり、タイにおいて直売型で野菜の販売を行おうとする多くの農家が越えるべき壁なのだと思います。

このように安定した顧客ベースを築いてきたにも関わらず、奈美・尚也ご夫妻は、日本の多くの小規模な農家と同様、前述したように昨今の宅配料金の値上がりに直面し、対策を講じなければなりませんでした。それは、非常に困難な課題であった一方、こうした小規模ビジネス運営の脆弱性を明らかにし、その結果、事業を強化する潜在的な好機としても受け取られました。夫妻は、遠隔地への宅配料金の値上がりを受け、農園の近くに住む顧客に焦点を移すことで対応しようとしました。また、個々の顧客に野菜を送る代わりに、共通の受け取り場所を設けることも検討しています。

私は奈美さんに、消費者はなぜ農家から直接野菜を購入しようとするのか尋ねてみました。理由はたくさんあって、野菜の新鮮さ、有機農家を支援したいという共通の想い、通常スーパーで販売されている野菜と比べて安全性を信頼できること、などが挙げられました。しかし、私が特に興味深いと思ったのは以下の2つの理由でした。第一の理由は、消費者がどのような野菜の味を好むのかに関わる感覚的なものです。「耕し歌ふぁ~む」の野菜は肥料などをあまり使わずゆっくり育てることで、より味が濃くなります。実際そこで食事を頂いて、それに賛同せずにはいられませんでした。第二の理由は、彼らがどのように農園の活動を環境にとって良いものとして枠づけられているかという、よりものの見方に関わることです。農園は山間部の川沿いに位置し、その川は彼らの顧客が暮らす京都市や大阪の人口が密集地の上流に当たります。従って、農園での取り組みは、直接的には下流に住む人々が利用する水の質を守ることし、また間接的には下流域全体の洪水制御に貢献しています。顧客は、野菜と一緒に送られてくるニュースレターを通じてこうしたメッセージを受け取り、野菜の購入がどのような意義を生態系にもたらすのかを理解し、農園を支援していく意欲を高めることになります。私は、これが、長い目で見て彼らのビジネスを支える最も重要な理由の一つだと思いました。確かに、日本国内の消費者ベースの中で見ると極々少数に過ぎませんが、私の経験から言って、タイではここまで消費者の中に環境意識や責任感が高まっているケースは非常に稀です。

「耕し歌ふぁ~む」の農業の取り組みに加え、ご家族の生き方も私にとっては興味深いものでした。彼らの生き方は、故プミポン前タイ国王(ラーマ9世)が提唱した「足るを知る経済哲学」に重なり合っているように感じました。その哲学の教えの中で、彼らの生き方に反映されていたのは、地域の知恵を取り入れること、地域の資源を利用・再利用すること、外部への依存を最低限に抑えること、まず自分たちが必要とするものを育て余剰分を他者に分け与えること、そして環境の全体的な健全性を支えること、などの重要性です。このことは、こうした原理が特定の地域や時間に限られない普遍的なものであることを認識させてくれました。

今回の短い滞在の間に経験し学んだことは、全体として非常に印象深いものでした。「耕し歌ふぁ~む」のご家族からもっと多くのことを学ぶのを楽しみに、また農園を訪れる機会があればと願っています。

(和訳:Yuko K.、編集:小林舞)

「耕し歌ふぁ~む」の様子(写真:シティデー・ポンキワラシン)