長野にて「信州発!持続可能な農業国際シンポジウム」開催 (プロジェクト・リーダー スティーブン・マックグリービー)

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FEASTの長野での活動が本格化する中、この約1年に渡ってNAGANO農と食の会、そしてOBUSE食の農の未来会議のメンバーの方々と緊密に連携し、持続可能な食の未来を描き、その実現にはどのような方策が必要なのか議論を重ねてきました。メンバーの方々と活動を進める中で新鮮に思うのは、アグロエコロジーの概念、そしてその原則に基づいたフード・システムへの転換の必要性について理解を持たれているということです。しかし、長野県は国内でも特に農業が盛んであるにも関わらず、有機農業やアグロエコロジーは広く一般には知られていません。そうした中でカリフォルニア大学バークレー校のミゲール・アルティエリ先生とクララ・ニコールズ先生の地球研への招へいが決まり、長野でのイベント開催というまたとない機会を逃してはならないという運びになりました。NAGANO農と食の会、長野県有機農業研究会、OBUSE食と農の未来会議のみなさまにご尽力頂き、ほんの数週間のうちに企画が進み、6月2日に「信州発!持続可能な農業国際シンポジウム:長野から有機農業の波紋を打ち出そう」の開催に至りました。当日は、農家さんを始め約220名の方々にご参加頂きました。当日の様子は映像記録として公開しておりますので、ご興味がありましたらぜひ下記のリンクからご覧ください。

シンポジウムは、まず長野県有機農業研究会会長の勝山卓栄氏の主催者挨拶から始まり、長野県内での有機農業の進展について、同研究会の取り組みに絡めてお話し頂きました。続いて、私がイントロダクションとして、工業型農業が気候、生物多様性、公衆衛生を取り巻く問題にどのように関連しているか、それ故に工業型農業を避け、アグロエコロジーの原則に基づいたフード・システムに転換すべきあるとお話しさせて頂きました。この点に関しては、長野県は日本の他の地域にとってのモデルになり得ると考えています。長野県は、政府によって「SDGs未来都市」に選定されており、長野県版エシカル消費の事業も進めています。しかし、これまで以上の取り組みが不可欠であり、私からは環境保全、食の主権、食料安全保障、地域内食料経済、自立の実現に向けたフード・ポリシー(食に関する政策)を提案しました。フード・ポリシー案に関する意見について、参加者の方々にアンケートを取り、下記の表1にまとめています。全ての案について、約9割の方々が支持すると回答頂きました。

表1:下記の課題に関して、長野県または地方自治体は対応策を取る、または政策を打ち出すべきである。

次に、アリティエリ先生に「なぜ、いま時代はアグロエコロジーなのか」と題し、基調講演をして頂きました。アグロエコロジーは科学知識と伝統知の融合であるという基本的な考えに始まり、世界中のアグロエコロジーの実践の事例について紹介頂きました。伝統的な農業システムでは、米作りに家畜などの動物の飼育を取り込む農法、混作、輪作などが行われています。また、多くの農場で、害虫や雑草駆除、地力回復、栄養循環、収穫量向上、健全な作物の生育のために、アグロエコロジーの実践が行われており、その事例は数えきれません。中でも、キューバの事例は印象的でした。キューバは、ソ連崩壊により、化石燃料が入手できなくなり、その中で農業の大半をアグロエコロジーに転換した国です。都市・近郊の農場や菜園では、アグロエコロジーが取り入れられ、今も国全体の食料生産に貢献しています。最後に、アルティエリ先生は、世界中で知識を共有し、適切な技術を広め、社会運動の中で政治的な組織化を進め、食の主権を拡大するために、カンペシーノ・カンペシーノ運動のような農民運動が非常に重要であると締めくくられました。

図:アルティエリ先生基調講演の発表スライド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続いて、愛知学院大学の関根佳恵先生からのビデオメッセージでは、国連の「家族農業の10年」について、また公的調達のスキームや直売を介し、家族農業を支えていく重要性についてお話しがありました。フランスの学校給食では、地元の農家から調達した有機の食材が使用されているそうで、例えば、ノルマンディでは、その調達率は100%とのことでした。

最後に、農家、研究者、町会議員、ジャーナリストとして、食と農に関わる女性の方々が登壇し、それぞれの経験や視点について議論を行いました。クララ・ニコールズ氏(カリフォルニア大学バークレー校講師、ラテンアメリカ・アグロエコロジー学会代表)は、ラテンアメリカの小農の人々を対象とした研究の経験と成果について述べた上で、農場またコミュニティレベルでの自律の確立が重要であり、参加者の中の若い農家さんたちに、アグロエコロジーの原則を推進し、食の生産者として暮らしを安定させるために、連帯(solidarity)に基づく食料経済を展開するよう、呼びかけました。齋藤えりか氏(松本市有機農家)は、自身のアフリカでの経験が、どのように有機農家というキャリアの形成につながっていったのかお話しされました。新規就農者が、日本の農村部で農業を続けていく上での支援の強化の必要性、同氏が農業に従事する中で地域コミュニティがどのような役割を担っているかについて、特に強調されました。松野亮子氏は、今年の統一地方選で池田町町会議員に当選されましたが、池田町にて有機農業を推進し、学校給食から遺伝子組み換え食品を完全に排除すべきと訴えました。また、有機食品の公的調達のための政策実施を計画中のことでした。堤美果氏(国際ジャーナリスト、作家)は、ご都合により到着が遅れましたが、お話が始まるとすぐに参加者のみなさんは夢中になっていました。同氏は、企業のグローバル化、国際貿易・政治に焦点を当てた著書を多く執筆されたベストセラー作家です。ニューヨークで同時多発テロ911事件を経験したことから、ビジネスや金融の世界を退き、社会の支援活動に移行したとのことでした。そして、より持続可能で公正なフード・システムの実現のためには、消費者は充分な情報を得て、買い物することで運動を後押しできると考えるべきであると訴えました。

今回のシンポジウムは大盛況に終わりましたが、長野でのアグロエコロジーの原則に基づいた生産、そして地域のフード・ポリシーに向けたアジェンダ設定に少しでもつながればと思っています。最後になりましたが、NAGANO農と食の会、長野県有機農業研究会、OBUSE食と農の未来会議、そして後援者のみなさまにはご尽力頂きましたこと、感謝申し上げます。

(和訳:Yuko K.)

《主催》長野県有機農業研究会、NAGANO農と食の会、OBUSE食と農の未来会議、須坂市環境保全型農業の会、総合地球環境学研究所 FEASTプロジェクト
《後援》長野県、日本の種子(たね)を守る会、小規模・家族農業ネットワーク・ジャパン(SFFNJ)、NPO法人みどりの市民、子どもの食・農を守る会伊那谷、佐久市有機農業研究会、(一財)日本農村医学研究所

イベントの各種情報・資料については、以下のリンクからご覧頂けます。

●イベント詳細:Nagano農と食の会のFBページ
●イベントに関するオンライン記事:長野県内の食と農に関する情報発信紙「伝える食と農 リンクネット信州」
●動画(Youtube)
前編:主催者挨拶、イントロダクション、基調講演
中編:ビデオメッセージ、パネルディスカッション前半
後編:パネルディスカッション後半
●当日配布パンフレット:ダウンロード

スティーブン・マックグリービーによる講演

ミゲール・アルティエリ氏による基調講演

関根佳恵先生によるビデオメッセージ

記念シンポジウム・パネルディスカッション

チラシ(表)

チラシ(裏)