京都オーガニックアクション:農家大合宿「百姓一喜」を終えて (ヴァーヘニンゲン大学 ギリェルメ・ラジ)

FEAST HQ WG3, レポート

2017年初めに、京都市南西部に位置する南丹市で「オーガニック」野菜の生産者のイベントが開催され、それを契機に立ち上げられたのが、「京都オーガニックアクション(KOA:Kyoto Organic Action)」でした。このイベントは「オーガニック」野菜の移動販売を手掛ける「369商店」のオーナー・鈴木健太郎氏らを中心として企画されましたが、京都府内の農家、流通業者、販売業者間の交流と関係性を強化、促進することを目的としていました。鈴木氏が南丹市に移住した当初は、このような活動に関わることになるとは想像もできなかったそうです。この集まりにて、京都の農村部から市内への「オーガニック」野菜の運送にかかる料金や流通管理システムの共有が提案され、それを企画・運営する「京都オーガニックアクション」(以下、KOA)と呼ばれる組織の誕生につながりました。KOAは小規模農家にとって大きな負担となっている流通コストの軽減と、長期的には京都府内の「オーガニック」農産物の生産者と購入者の流通拡大を目指す組織です。この共有を基本とするアイディアは、鈴木氏によって、地域支援型農業(Community Supported Agriculture)の概念になぞらえて、地域支援型流通(Community Supported Transportation)と名付けられました。

そして、ちょうど一年が経過した2018年3月3日~4日に、前年のイベントを継続する形で、農家大合宿「百姓一喜」が開催されました。今回のイベントは、日本で「オーガニック」野菜を提携型で取り扱ってきた団体の中でも長い歴史を持つNPO法人「使い捨て時代を考える会」が南丹市に所有するNANTAN交流の家で開催され、128名もの参加者がありました。イベントの主な目的は、参加者同士の交流と、農業セクターの将来的発展についてブレインストーミングを行うことでした。

今回のイベントは、大きく分けて以下の3つのセッションから成り、2日間に渡り開催されました。1) 参加者が8つのグループに分かれ、自身の経験談を共有し、農家が現在直面する課題について議論するグループディスカッション、2) 参加者がインフォーマルに会話を交わし、情報交換やネットワーキングを行うための宴会、そして3) KOAの紹介と今後の活動計画の報告、です。

グループディスカッションの要点

グループディスカッションを始める前に、今回のイベントのファシリテーターでもあるKOAの発起人の方々が、農家が今直面している問題とどう向き合って行くかについて、緊急を要するものと重要なものとを区別してみようとの提案がありました。あえて立ち止まって問題の構造を考えてみることが、私たちの自律性や主体性の強化に繋がると強調されました。その例として、農家の方たちが、雪害など緊急度の高い問題への対応に時間を取られているという現状が挙げられました。しかし、眼前の緊急課題の解決に追われていては、緊急性は低くても長期的に見た場合に重要となる構造的な問題への対応は後回しにされてしまいます。上記の例を取ると、例えば、異常気象の際に必要な労働力を補うサポートネットワークの確立などが考えられるかもしれません。つまり、「なぜ」を問うことにより、人々は自身の指針、価値、そして信念を進展させ、長期的に見てより効果的に課題を対処することができるようになるでしょう。とは言うものの、農業の予測不可能性や脆弱性はいかなる食農体系も避けて通れないものであり、こういった条件はトップダウン式の体制で考慮されないことが多いと指摘されました。また、脆弱性の対応として、厳格な計画立案をもって取り組むことは適切とは言えず、何事に対しても行動に移す前に、正確に観察、判断そして適応するための能力を強化していくことの重要性が指摘されました。それは、あらゆる不確実性と共存し、その中でいのちを育てていこうとする、「オーガニック」農業の基本的な方針に通じるものです。

一日目のディスカッションでは、下記のような多岐に渡る議題が挙げれました。

  • 農家の方の中にはきちんと食事をとる時間が無い方も存在し、健康状態を必ずしも良好に保つことができず、農家の健康状態とその農作物の質に乖離が生じていること。
  • 有機JAS認定の基準は不十分であること。
  • 「オーガニック」は単に味が良いということや、慣行農法との対比としての二項分類的捉え方を超えた理解を広める必要があること。
  • 現代の日本の農村部では人口減少や高齢化により、地域固有の知識をもつ農家が減少していること。
  • オーガニック農業を、若い農家にとって将来性のあるものとして展開していく必要があること。

上記の他にも、農業者の抱える課題の本質について、さまざまな議論が行われました。

宴会の時間!

一日目の夜は、西本方氏が腕を振るってくださった「陰陽料理」を頂きました。西本氏は、物腰が柔らかく、思いやりのある方で、頭を使って議論することは、体内の「陰」要素を刺激するため、「陽」性の食事をいただくことによって、私たちの内なる力の均衡を保つのだと説明してくださいました。宴会は、参加者同士の交流の機会、さらに参加者が持ち込んだありとあらゆる種類の日本酒を試す機会でもありました。イベントのポスターにも日本酒の瓶が大々的に描かれていましたが、参加者が一番楽しみにしていた時間だったとも言えるでしょう。

KOAの紹介

二日目は、炊き立てのごはんに、出来立てのお味噌汁、キャベツのサラダの朝食から始まり、KOAに関するプレゼンテーションに備えました。まず、KOAの設立に携わった369商店、アスカ有機農園株式会社坂ノ途中の3社の概要の説明があり、特に以下の課題が強調されました。

  • 宅配料金の急激な値上がりにより、流通にかかる費用が高騰し、ただでさえアクセスの難しい小規模で生産されている「オーガニック」野菜は、より手が届きにくいものとなってしまった。
  • 農村部の小規模生産者は、民間宅配システムへの依存度がより高い。
  • 販売者は、納品量などについて生産者に相談せず、注文を強いる場合が多い。
  • 品目の偏った生産や過剰生産を防ぐため、農産物の収穫時期や種類を取りまとめ、生産者間、また生産者と販売者間の調整が必要である。

こういった課題に対応するため、KOAは以下の目標に取り組んでいます。

  • 既存のコミュニティ間、またその中で、連携のとれた生産者ネットワークを確立する。
  • 生産、流通、販売、消費に携わる者のつながりを向上させる。
  • 既存の流通路に関する情報を収集し、その効率を最大化し、流通コストを最小限に抑える。
  • 生産者を対象とした調査を実施し、潜在的生産を裁定する。また、ワークショップを開催し、特定の技術や生産に関する知識を共有する。

最後に

今回のイベントは、生産者と販売者同士の対話の機会を提供したのみならず、参加者全員が日本の慣行農業業界の枠組みに捉われることなく思考を広めようとする場でもありました。直売や定期配達などを通じて、地域の野菜を消費者に届けることはもちろん重要ですが、KOAのようなオルタナティブな食のネットワークは、その一歩先を行く活動を目指そうとしています。それは、ブリコラージュ(寄せ集めてつくること)から、言葉では表わされることが少ない知識が共有され、創造力を培うことのできる、共同の学び場を創出するものです。

KOAのようなイニシアチブは、食システムのポリティクスの刷新をサポートする方法の実験現場として非常に意義深い役割を担います。KOAが特に重要視しているのは、食品の物流における立場や専門性に関係なく、誰もが平等な立場から関わり得る新しい組織的論理の上に成り立つ物流ロジスティクスの確立です。この目標達成に向け、全体としての取り組みに、全ての当事者が各々の専門知識をもって貢献することが重要であると強調されおり、これはシェアリング・エコノミー(共有経済)の概念にもつながるものです。しかし、KOAの組織化に向けた包括的なプロセスは、繊細かつ複雑であることも明らかになっています。こういった草の根レベルでのイノベーションは、組織化の過程で営利を追求する方向性を選ぶことが多く、それは注目や投資を集め、より広域まで届くものとなる一方で、当初の価値観や指針、さらには民主主義的な実践が犠牲となることがしばしばあります(Martinほか、2015)。スピード感を持って進むKOAの発展をフォローし、組織化の過程で生じる課題にどのように対処していくのか、またKOAの本質的価値やKOAが目指す地域に根づいた民主主義的アプローチをどのようにしたら守ることができるのかについて、理解を深めることが今後の重要課題であると考えます。

KOAは、市場のニッチを対象としたイニシアチブであり、集合体としてのコミュニティのネットワークを上手く活用し、同じ志を持った生産者、販売者、また消費者などを含む食のシステムのアクターを、より多く効率的につなぐことを目指しています。一方で、これまで蓄積されてきた市場に関する知見を活かし、既存のシステムとその組織設定を基礎として展開して行くことが可能です。しかし、独立した小規模生産者のネットワークを拡大し、より多くの資源を動員することにより、京都における新しく、より強固な食文化の基礎につなげていくといった新しい領域を開拓しようとしています。もしこの目標の達成のために、KOAが有用なシステムを確立できたならば、経済的な利益を拡充できる可能性もあるでしょう。しかし、そうなった場合、恩絵に授かるのは誰でしょうか。生産者でしょうか。それとも、消費者、参加している企業、あるいはKOAとなるのでしょうか。そして、それはどのような犠牲の上に成り立ち得るのでしょうか。

<引用文献>

Martin, Chris J., Paul Upham, and Leslie Budd. “Commercial orientation in grassroots social innovation: Insights from the sharing economy.” Ecological Economics 118 (2015): 240-251.

(校正:小林舞、和訳:Yuko K.)