世界社会科学フォーラム(WSSF)2018に参加してきました!(プロジェクトリーダー スティーブン・R・マックグリービー)

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去る9月25日~28日に福岡国際会議場で開催された「世界社会科学フォーラム/ World Social Science Forum 2018(以下、WSSF 2018)」にFEASTも参加してきました。

地球研は、WSSF 2018のコンソーシアムパートナーであり、所としてプレゼンスを高めることはもちろん重要でしたが、地球研に新しく導入されたプログラム制が、統合的また横断的に関連するテーマや概念を議論するにあたり、どのような可能性を有するのか紹介する機会ともなりました。FEASTプロジェクトとプログラム3で応募した4セッション全てが採択されたことには驚きましたが、所全体としてみると、セッション数は10近くにのぼりました。

会場に到着すると、会場の隅々まで黒服の警備員の方で埋め尽くされていました。一階の入り口は、まるで空港の保安検査場のようで、何重にも及ぶセキュリティーチェックと金属探知機による厳重な警備が敷かれていました。後になって分かったのですが、皇太子ご夫妻が開会式にご出席されるため警備が強化されていたようです。日本のこういった会議の開会式といえば、形式張ったものが多く、WSSFもその期待を裏切らないものでした・・・2つのパネル(女性が1名しかいなかったため、「panels」を文字って、「manels」(男性 ”man”のみで構成されたパネル)と呼ぶ人もいました)の政府高官や学会役員方々が登壇すると、皇太子ご夫妻が会場に入られるまで、時が止まったかのように約10分間の沈黙がありました。皇太子ご夫妻に実際にお目にかかるのは初めてのことでしたが、皇太子殿下が英語で行われたスピーチは、私がこれまで数多く聞いてきたスピーチの中でも群を抜いて素晴らしいものでした。また、安倍首相からの祝辞を司会者が声高に代読するシーンもありました。

FEASTセッション

The wild food basket: recreating urban and rural ecosystems as food sources (CS3-02)

(仮訳:ワイルドフードバスケット:食料源としての都市と農村のエコシステムの再生)

このセッションでは、食の安全保障と食料供給における自然の役割について議論しました。フォーマルな食料市場へのアクセスに留まらない食の安全保障を強化するには、消費者は味覚の幅を広げ、食料源として自然生態系(エコシステム)に目を向ける必要があります。都市部および農村部のエコシステムにおいては、能動的に自然再生を目指すリワイルディリング(rewilding)や保全管理が実施され、あるいは景観管理からの段階的撤退により、生産者、消費者にとっての「ワイルドフードバスケット(wild food basket)」が形成されています。まず、FEASTサブリーダーの田村典江上級研究員は、日本国内の地域再生プロジェクトを通じて自然界の食べものに付加価値がつき、農村部のくらしの向上につながっていると発表しました。小林舞研究員の発表では、近代化の進むブータンにて仏教の教えと野生鳥獣肉の消費の間に生じた矛盾を明らかにしました。マキシミリアン・スピーゲルバーグ研究員は、日本の養蜂家減少に関するデータを紹介し、消費者と政策がどのように今後のハチミツ生産に寄与していくのか報告しました。続いて、九州大学の安田 章人准教授は、日本の農村部における狩猟および人間と自然の相互作用の歴史を辿り、農作物への被害といった野生動物のもたらす「問題」には、人間の居住パターンと地域社会において自然管理に関する知識が失われていることが関係していると論じました。最後に、兵庫県立人と自然の博物館の三橋弘宗生態研究グループ主任研究員は、「水辺の小さな自然再生」の取り組みとして行われている、小規模な自然再生プロジェクトの事例について報告を行いました。

Building a new food economy in Japan through sharing, collaboration, and commoning (CS4-07)

(仮訳:日本におけるニューフードエコノミーの構築:共有、連携 、コモンズ化)

「食」は、共有(sharing)や贈与(gifting)といったさまざまな形式で、人々のインフォーマル経済の中心的役割を担ってきました。食の消費と生産は、人、場所、自然の結びつきをより強固なものにし、より広い意識を醸成し、健全性を向上させる社会活動になり得るものです。本セッションでは、ニューフードエコノミーを構成するさまざまな活動の事例を紹介しました。オーストラリア国立大学の河合史子氏(博士課程、FEASTメンバー)は、日本国内におけるフォーマルとインフォーマルの種子の共有に関する詳細な事例紹介を行った上で、農家やさまざまな団体が、どのように種子というものを捉え、知識を共有しているのかについて報告しました。東北大学の内山愉太助教からは、能登半島にて家庭菜園と地域のシェアリングが担う役割、また地理的指標が地域の農家にいかに有益であるかに焦点を当てた発表がありました。続いて、筑波大学の新保奈穂美助教は、日本、ドイツ、ニュージーランドのコミュニティーガーデンの事例を比較検証し、地域社会がどのように形成され、相互に作用するのか報告しました。A Small Labのクリス・ベルテルセン(Chris Berthelsen)氏は、美味しい景観(delicious landscape:一部こちらからご覧頂けます)と、楽しく手近にあるものを活用するフードアートの取り組みを紹介しました。最後に、小林舞研究員が、対馬と京都の無人販売所の事例研究について、運営方法や、販売者、消費者、そして地域社会にとってどのような意義を成すのか報告を行いました。

Using game-based methods for sustainability transformations: lessons from practice and theory (CS4-05)

(仮訳:持続可能な社会への移行に向けたゲーム・ベース手法の活用:実践と理論からの教訓)

本セッションは、プログラム3のセッションと、時間が重なってしまったため、残念ながら参加できませんでしたが、下記が要旨と発表内容です。

持続可能な社会への移行/転換のための協働は、複雑な要素間の相互作用、価値観や利害関心の対立、変革への抵抗感、未来の曖昧さ、相いれない複数の解決策、問題ごとに適切な介入方法が異なるなどの原因から、人々のあいだのギャップを埋める作業と併行して行われる必要があります。このセッションでは、ロールプレイングやシミュレーションなどのゲーム・ベースの方法を用いて、プレイヤーの未来への想像力を引き延ばすことにより、このギャップを緩和することを模索する、一連の試みを報告しました。まず、ユトレヒト大学のJoost Vervoort 准教授が、オランダと日本で実施されているゲーム・ベースの方法の比較について、Astrid Mangnus 研究員が、ゲーム・ベースの方法が京都市内で実施された持続可能なフードシステムのあり方を模索するワークショップにもたらした効果について発表しました。立命館大学のシン・ジュヒョン氏(博士課程)は、シリアスゲームの開発が盛んな韓国の現状を紹介しました。続いて、地球研の大谷道高氏が、日本におけるシリアスゲームジャムの歴史と現在の課題について、王智弘外来研究員が、地球研で開発されたシリアスボードゲーム「ネクサス」の制作過程とその効果について発表しました。最後に、太田和彦研究員は、ゲーム・ベースの方法が非営利団体の知識共有や大学生の学習意欲の促進にもたらす効果を報告しました。

プログラム3セッション

Lifeworlds of sustainability and well-being in a shrinking Japan (CS1-03)

(仮訳:縮退する日本における豊かさの向上を実現する生活圏)

地球研プログラム3に属するFEASTプロジェクトとサニテーションプロジェクトは、人口減少が日本国内の農村部の人々の持続可能性と豊かさにどのような影響を与えているかについても調査を進めています。現代の日本における人口減少と景気後退が入り混じる状況は、他の先進国にとっても避けて通ることのできないものであり、経済成長を牽引する消費主義の存在自体が脅かされるかもしれません。その一方で、日本の縮小社会は、生態系への負荷を低減し、豊かさ(well-being)につながる価値観を再考し、経済の相互関係を再構築し、資源消費を縮小する機会にもなります。本セッションでは、景気後退の中にある縮小社会が、どのように持続可能性を高めるのか、どのように現在の大量消費と経済成長とは逆の新しい、より豊かなくらしを実現するのか探ります。英国シェフィールド大学のピーター・マタンリー上級講師は「depopulation dividends(人口減少の配当/ボーナス)」のエキスパートであり、縮小社会の概要について、そして加速する人口構造の変化の中で、環境にやさしく持続可能な農村開発がどのように起こり得るかについて報告しました。私は、都市部から農村部への移住が、衰退する農村部における個人や地域社会の豊かさをどのように再定義しているのか、またオルタナティブな「よいくらし(good life)」の認識がどのように形成されていくのかについて発表しました。北海道立総合研究機構・北方建築総合研究所主査の牛島健氏は、北海道の遠隔地コミュニティにおいて、行政からの補助なしに運営管理されているサニテーションシステムを紹介し、縮退の進む地域では、垂直・水平両方向の管理ネットワークがいかに不可欠であるか論じました。茨城大学の高瀬唯助教は、都市部の耕作放棄地の課題に触れ、都市住民がどのように自然・緑地管理を認識してるのかについて報告しました。最後に、クリストフ・ルプレヒト研究員は、都市部の自然をコントロールするパラダイムが機能しない事態に陥った時、どのようにすれば住民は存続、そして繁栄することができるのか問い、セッションをまとめました。そして、デグロース(脱成長)の概念を重視し、人間の枠を超えた(more-than-human)計画立案に向けた、スチュワードシップ(stewardship)・アプローチを介する筋道を提案しました。

その他のハイライトは以下の通りです。

●会議初日のケイト・ラワース(Kate Raworth)教授の基調講演に出席できたのも素晴らしい経験でした。ラワース教授は、広がるプラスチックボールや「rational man(合理的人間)」の人形といった小道具を用い、「ドーナツ経済学」の真意をお話しされていました。若干、高校の科学の授業のようでもありましたが・・・

フューチャーアース持続可能な消費と生産のシステムに関する知と実践のネットワーク(The Future Earth Systems of Sustainable Consumption and Production Knowledge-Action Network)は、セッションCS4-06「Achieving Sustainable Consumption: How to Bridge “Weak” and “Strong” Approaches to Sustainable Consumption and Production in Theory and Practice(仮訳:持続可能な消費の実現:持続可能な消費と生産に向けた「弱い」アプローチと「強い」アプローチの隔たりはどのように埋めることができるのか―理論と実践)」を企画しました。知と実践のネットワークのコアメンバーであるニュージャージー工科大学のモーリー・コーヘン(Maurie Cohen)教授とマグナス ベングソン(Magnus Bengtsson)氏、またSustainable Europe Research Instituteのシルビア・ロレック(Sylvia Lorek)氏の発表は非常に興味深いものでした。特に、コーヘン教授の発表に端を発した、適切な家の大きさについての議論は関心を引くものでした。

●人口減少と縮退は、本会議における重要テーマであり、プログラム3のセッションに関連して、地球研のハイン・マレー副所長がセッションCS1-05「Demographic contraction and post-consumerism in contemporary Japan: challenges, realities, and benefits(仮訳:現代日本における人口減少とポスト消費主義:課題、現実、利点)」を企画しました。

●夜には、FEASTのメンバーと会議の参加者で、福岡の有名な屋台街に繰り出し、おでんや海鮮、お酒を頂きました。

(和訳:Yuko K.)

スピーゲルバーグ研究員の発表の様子(撮影:スティーブン・R・マックグリービー)

屋台街でのFEAST!(撮影:スティーブン・R・マックグリービー)

基調講演の様子(撮影:田村典江)

「楽しい人生送りたい?」クリストフ研究員「いいえ。」(撮影:マキシミリアン・スピーゲルバーグ)